自分の軌跡を形に


by kazuyuna
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小説第三弾

以前、書いた小説をアップしますよ第三弾。
今回の舞台は、オンラインゲームの「眠らない大陸クロノス」です。
管理人が、ゲームをやめるときにゲームの舞台となったクロノス大陸へ、
そして仲間へ向けた「最後の日記」です。

以下、分かりにくい語の説明。

【クロノス大陸】
ゲームの舞台となる大陸。ゲーム名にも使われている。

【パラディン】
このゲームでは、4つの職種から1つの職を選ぶ。
4つの内の1職種。日本語に直すと聖騎士、かな。
剣技、および仲間への回復、支援魔法を得意とする。

【セルキスソード】
熟練したパラディンのみが装備できる聖なる剣。

【狩り】
モンスターを倒すこと。

【ブロードソード】
安価な剣。入手しやすい。

【ヴィラ=J】
古代の英雄、伝説のパラディン。
ヴィラ=Jという名前は、熟練したパラディンのみが装備できる
防具にもつけられている。

【黒装備】
卓越した経験をもつパラディンにのみ装備が許される高級防具。
装備が「ブラック~」という名前なので、このように呼ばれる。

【ギルドマスター】
ギルドの長。
ギルドをまとめる者として、仲間から信頼を得ている者が多い。

【クロノス城】
冒険者が最初に訪れる城。
広大な冒険、仲間との出会いはここから始まる。

【ウォリアー】
4つの職の1つである戦士。斧を使った攻撃を得意とする。

【支援パラ】
能力の伸ばし方によって、様々なパラディンが生まれる。
その中の1つであり、支援に特化したパラディンがこう呼ばれる。

【PT】
パーティー。狩りをするときに組む徒党。

【バルキリー】
4つの職の1つである戦乙女。弓を使った攻撃は優雅であり強力。

【マジシャン】
4つの職の1つである魔術師。強力な魔法攻撃を得意とする。

それでは、どうぞ。題名は……



「ん… 朝,か。」

窓から入ってきた日差しでいつもよりも早く目を覚ました。

今朝の日差しが今まで味わったどんな光よりも強く感じたのは
きっと気のせいではないだろう。

今日,僕はクロノス大陸を離れる。

新たな旅立ちを太陽も祝福してくれているに違いない。

「考えすぎ…だな」

出発の準備を行いながら,思わず苦笑してしまった。

パラディンの証であるセルキスソード,ではなくこの前の狩りで
拾ったブロードソードを手にする。

セルキスソードは既に僕の手にはない。

この大陸に残るパラディンに自分の意思と共に預けてきたからだ。

この大陸を去る僕にもうセルキスは必要ない。

大陸に残るパラディンが仲間を支援できるように
この大陸に残していった方がずっといい。

なぁ,あんたもそう思うだろう?ヴィラ=J 。

と,伝説に残っているパラディンに話しかける。

返事が返ってくるはずがない。

しかし,僕には吹いている風の音にのって言葉が聞こえた。

「ああ…そうだね」

今まで聞いたどんな言葉よりも優しく,
人を包んでくれる優しさをもった声だった。

「…ありがとう」

聞こえたはずのない声に小さな声であいづちを打つ。

今まで何度も激戦を繰り広げてきた。

何度も生死をかけて闘いに臨んできた。

決して大げさではない。

その証拠に今まで僕とともに戦ってきてくれた
黒装備に無数の傷が入っている。

闘いから帰って来る度に修理をした。修理を怠ったことなどない。

それでも消えない無数の傷が残っている。

いや,残しているといった方が正しいだろうか。

誰が?

答えは簡単だ。

この装備達が自ら残しているのだ。共に戦ってきた証拠として。

「苦しい時もあった。嬉しい時もあった。
いつも君と一緒に味わってきたんだよ?」

…まったく,今日の僕はどうかしているな。

装備の声まで聞こえてくるなんてな。

僕は今まで共に戦ってきた友人達を自分の身体にまとった。


「こんなに長い間,この大陸にいるとは思わなかったな…」

今まで数え切れないほどの出来事があった。

初めてこの大陸に迷い込んだ時,何も分からず右往左往していた。

そんな僕を通りすがった人達が助けてくれた。

道に困っている僕に行くべき道を指し示してくれた。

自分が進むべき生き方がわからなくなった時もあった。

そんな僕を今まで出会った仲間達が助けてくれた。

自分が進むべき方向,生きていく方向を教えてもらった。

間違った道に進もうとする時はいつも言葉をかけてくれた。

今までどれほどの助けを受けてきたのだろう。

ふと,思い出そうとする自分がいた。

だが,すぐに思い出そうとするのをやめてしまった。

数えられるはずがない。あたりまえだ。

数えられるほど少ないはずがないじゃないか…。


ギルドというものを経験した。

同じ考えを持った人たちが集まる共同体のようなものだ。

今まで話した事もない僕を優しく受け入れてくれた。

皆,ようこそと言ってくれた。

嬉しかった。この人達とならやっていけるとそう思ったよ。

少し時間が経ち,ちょっとした分岐点が生まれた。

いや,今思えば大きな大きな分岐だったな。

この分岐点で僕はギルドマスターになるという道を選んだ。

正直,自信があったわけではない。しかし,ギルドの仲間に薦められた。

自分を信じてくれた人達のために頑張ってもいいんじゃないか?

期待に添えなくても,頑張ることに意義があるんじゃないか?

一つの決心が僕を奮い立たせた。そして,今に至るってわけだ。

信じてくれた人,期待してくれた人。僕はその通りに働けたかな…。

期待通りじゃなかったといわれても今となっては取り戻すこともできない。

僕にできることは一つ。

「今まで支えてきてくれてありがとう」

と,心の中で感謝の気持ちを言うことぐらいだな。

ああ,安心してくれよ。ギルドマスターは大陸に残る者に譲ってきたさ。

心配などしていない。

きっと今まで以上にギルドを発展させていってくれるはずだ。

今まで僕を信じてきてくれた人達だ。今度は僕が信じてやる番だからな。


「さて…そろそろ行くとするかな」

思い出に浸っていた僕は,その重い腰をあげた。

今まで自分が育ってきた街。いや,自分を育ててくれた街に別れをつげる。

「今までありがとうな。そして,新たな冒険者達も育ててやってくれよな」

まぁ,僕がそんなことを言わなくても
きっと育ててくれると信じてるのだけれども。

一歩一歩街の外へと歩を進める。

周りはいつもと同じ風景。これからも変わらないであろう風景であった。

周りの者が少しだけこちらを見る。

やはりクロノス城に黒装備は珍しいのかもしれない。

そんなことを思いながら,ついに街の外へと踏み出した。

「行くんだな」

街の外へ踏み出した瞬間に聞きなれた声が聞こえた。

声のした方向へ振り向く。

そこにはいつも共に狩りをしていた仲間達がいた。

僕はこの大陸を去るのが今日とは言っていない。

別れは苦手だから,何も言わず去るつもりだったのだ。

「どうしてここに?」

先ほど言葉を発したウォリアーに聞いてみた。

そのウォリアーが笑いながらこう言った。

「分かってたさ。今までどのくらいお前と付き合ってきたと思ってるんだ?」

「そうか…。どうも隠し事が苦手みたいだな,僕は」

僕は苦笑して言葉をつぶやいた。

そのウォリアーの横にはパラディンがいた。

支援を中心に行動しているパラディンだった。

僕も支援パラだった。

だからこのパラディンには自分の意思を継いで欲しいと思っている。

その旨を伝えようと僕が口を開く。

「なぁ,もし良かったら…」

僕の言葉を途中で遮り,そのパラディンが言葉を発する。

「俺が貴方の意思をきっと継いでみせますから。
大陸の外から見守っていてください!」

今までこのパラディンから聞いたどんな言葉よりも
はっきりと力強さが感じられた。

安心した。これで僕はここにいなくても大丈夫だ。

僕以上の人がここにいるのだから。

「ねぇねぇ,ほんとに行っちゃうの…?」

後ろから声が聞こえた。そちらの方を振り向く。

目に入ってきたのは今まで何度かPTを組んだことのあるバルキリーだった。

「そうだね」

素っ気なく僕は答える。

未練が残っていると思われては去りがたくなってしまうからだ。

「貴方の決めたことだからしょうがないね…。
でも,私,帰って来る日を待ってるからね。
去るのは貴方の勝手。待ってるのは私の勝手なんだからね」

バルキリーの顔をよく見てみる。笑顔だ。

しかし,発した言葉は涙声だった。いつもの明るい声とはかけ離れていた。

「ああ,分かった」

ここに留まりたい気持ちを押さえ,感情をかみ殺した声で僕は答えた。

三人との会話が終わるとそこから先は
聞き取ることなどできないような会話となった。

ありがとう。 元気でな。 また会いましょう。
楽しかったよ。 PTの時は助かりました。
いつか会いにいくからね。   …

何人の声がしたのだろう。

いつの間にか僕は大勢の人達に囲まれていた。
何度も顔を会わせたことのある者から
一度しか会話をしたことのない者までいた。

やれやれ…これだから何も言わず終わりにしたかったんだよ。

全く,こんな奴のために集まるなんて,みんなどうかしてるんじゃないか…。

自然と涙が溢れてきていた。

抑えることのできない感情が僕の全身を包んでいた。 

周りの声が少しおさまってきた頃に一人のマジシャンが声をかけてきた。

「貴方はこのクロノス大陸にとって必要な人です。
貴方が去るからといってその事実に変わりはありません。
本当ならずっと一緒にいてほしいって思います。
けれども,貴方をとめることはしません。なぜなら…」 

落ち着いた口調でマジシャンは言葉をつないでいく。

「この大陸以外にも貴方を必要としている人がいるからです。
待っている人がいるからです。
あなたは僕達を照らしてくれた光です。
どうか光を必要としている人達のもとへ行ってあげてください」

笑顔で,真っ直ぐに僕の目を見つめてマジシャンが言った。

「…ああ,分かった」

またもや素っ気無い返事。

しかし,今度は感情を押し殺すことはできなかった。

この大陸に来たのは偶然だった。

しかし,今周りにいる人に出会うことは必然だったように思う。

この大陸にいる間に自分はどれほど成長したことだろう。

これほどまでに成長できたのは皆のおかげだ。

それだけは変えることのできない真実だ。

「今まで本当にありがとう。
これから出会う人たちにも僕に接してくれたように優しく接してあげてほしい。
そして,今まで以上の素晴らしい大陸にしていってほしいと思う」

これがクロノス大陸で放った最後の言葉となった。

僕は大勢の仲間達の元を離れ,ゆっくりとだが確実に歩を進めだした。

今日集まってくれた人達もいつかは僕の名前を忘れるだろう。

でも,それでもいい。

少なくとも今は僕のことを考えてくれている人が数多くいる。

それだけで十分だよ。


僕はついに大陸の外へと踏み出すことになった。

あと一歩踏み出せばこの大陸ともお別れだ。

自分の渡せるものは全て渡した。

予想外ではあったが別れも告げることができた。

もう思い残すことなどない。やり残したことなどない。

…いや,1つだけ訂正させてもらおうかな。

『今朝の日差しが今まで味わったどんな光よりも強く感じたのは
きっと気のせいではないだろう。 今日,僕はクロノス大陸を離れる。
新たな旅立ちを太陽も祝福してくれているに違いない。』

こう思ったのは僕の考えすぎじゃなかった。そう思っても構わないかな?
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by kazuyuna | 2006-05-13 21:51 | 小説